その兄への愛情は如何ほどのものか―『魔法科高校の劣等生』読み中―

 「小説家になろう」というサイトがあります。私は名前だけは知っていたのですが、実際にアクセスしたことはありませんでした。小説を投稿するシステムがあり、感想や評価をつけることが出来るらしい、というイメージを持っているだけでした。

小説家になろう

 それがどんなものであろうかと試しに登録して昔書いた掌編を投稿すると、ありがたいことに幾つか感想と評価をいただきまして、なかなか活発なサイトであるようです。評価システムもなかなか面白く、文章評価とストーリー評価による点数とお気に入りに登録された数×2を足した総合点数でランキングが付けられています。その累計ランキング1位の作品をこのたび読み始めました。

魔法科高校の劣等生 作者:佐島勤

 評価やシステム内での感想は登録しないと出来ないようですが、読むだけなら未登録で大丈夫です。今回私が呼んだのは第一章・入学編でして、面白かったので続きを俄然読みたいところですが、ひとつ冷静になって自分の中で整理しておこうと思い何やら書いてみます。第一章の発表は2008年10月のことであるようです。そして上にも述べたように1番人気。今更私が何か言うことがあろうか、という悪い癖が出ますが、今更に立ち向かうというのを目標にしようと2つ前のエントリにて宣言したので、やってみます。今更に負けないというのは、読む見るすると行った受け取りの話だけではなく、ブログやツイッターなどで感想、レビュー、考察、雑談、などをするアウトプットにおいても当てはまることだと思います。


 一番最初に知ったのはタイトルです。そのタイトルには「魔法科高校」と「劣等生」という二つのワードがあります。どちらも目を引く言葉ではありませんし、どことなく古い感じもします。そういう意味では印象は良くなかったのですが、魔法を教える学校の生徒で、優秀ではなく、でもなんか特殊な能力がある主人公なんだろうなと思わせるという利点はあります。
 実際はどうだったかというと概ねその通りではありましたが、主人公は全然劣等生ではありませんでした。それどころか誰よりも技能があり、誰よりも知識があり、ものごとを見通す目があり、評価システムには認められなくても、誰もが彼を劣等生とは思わないでしょう。そういうわけで劣等生とは主人公を現す言葉ではないのかもしれませんし、"劣等"という言葉に何か意味があるのかもしれません。
 私が読んだのはまだ第一章だけです。ですので今後を読めば印象は変わるかもしれませんが、この時点での感想を書きます。


 まず世界観と世界設定、魔法設定が上手いですね。近未来を舞台とした科学発達と魔法の存在が公的に認められたことによる社会変化、そして魔法自体の構造が非常によく練られています。それを説明する地の文が結構多いのですが、わりと納得しやすく書かれていて非常に関心しました。逆に会話の描写は、誰が話しているのかわかりにくいところがあり、文自体は読みやすいと思うのがですが、少し難があるかもしれません。しかしとそれとは無関係に会話の内容自体は小気味よく会話を追うだけでも楽しさがありました。

 次はその会話を織りなすキャラクターです。中でも特筆すべきは妹でした。世の全てのキャラクターに言えるかもしれませんが、とくに妹キャラにおいては、お兄ちゃんすきすきーと飛び込んでくるよりも、黙ってしっとりと兄を見つめているような子のほうがより深い愛情を抱えているように見えることがあります。*1
 それではここに登場する妹はどうであったか。それがなんともハイブリッドでありまして、そのどちらをも有しているのです。ずるい! どう見ても主人公である兄のことが好きですし、それは周囲みんなが出会ってすぐに理解したところです。やばい、こいつ重度のブラコンだと誰が見てもわかります。常に兄と一緒に居たがり、兄に近づく女を警戒しています。兄をなにより尊敬し、兄を中心にものごとを考えているようです。これだけ兄好きっぷりを発揮していおいて、それなのに、愛情を発しきれないなんですね、この妹は。過去に大きいものを抱えているせいで、ホントは好き好きと跳びつきたいのに跳びつけないのではないか、そう思うとなんとも愛おしくなりますね。既に十分外に漏れ出ているのに、それでも推し量れないほどの愛情を小さな身のうちに抱えた少女……今すぐ兄になって抱きしめてやりたいところです。
 ところが、この妹の情愛を、主人公たる兄はなんとも……こう……もどかしい感じで受け取ります。鈍感なわけではなく、避けるわけではなく、受け止めてるようで流してるんですね。兄の感情はあまり読み取れませんでしたから、こっち側からどうなるのかはまだ未知数ですが、この兄妹の関係性は非常にすばらしいですね。1章は、この二人を追いかけるだけでストーリーがわかり、盛り上がるので、よく出来たつくりだと思います。
 他のキャラクターも魅力的だとは思うのですが、今は妹のことで頭がいっぱいなので省略です。

 最後にストーリーを……というところなのですが、先にも述べたとおり私はまだ1章しか読んでいませんので、あまり大きなことは言えません。キャラ紹介と世界設定を出しつつ、一つの火種を消化したというところで、主人公が強すぎてピンチ感に欠けたきらいはありますが、上手いことまとまって、今後に期待させる内容だったと思います。というか私は思いっきり期待しています。すぐにでも2章以降を読みたい気持ちを抑えてこれの文章を書きました。
 キャラクター小説として驚くほど秀逸なのに、SFとしての舞台と要素をギッチギチに見せつけなお、読みやすさを損なわない、魅惑の小説「魔法科高校の劣等生」を、今更を振り切って読みました。今後はチャンピオン以外にも書いていくつもりですが、今は先を読みたい気持ちで精いっぱいなのでここらで筆を置いて読みに行ってきます。

*1:私はBaby Princess開始直後から全姉妹を平等に愛すトゥルー長男です。全ての愛の表現を尊く思います。