「良い流れ」を生み出す表現に反則なんて無い ―『モメンタム』1巻―

モメンタム 1 (少年チャンピオン・コミックス)

モメンタム 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 2011年週刊少年チャンピオン新連載のバスケ漫画、『モメンタム』1巻が発売しました。同時期に連載を開始した『囚人リク』『てんむす』と共にチャンピオンの最前線を盛り上げています。

 タイトルのモメンタムとは流れのこと。良い流れ、勢い、そういったものを呼び込む男、名和菊苗が、(反則をしながら)ダンクを決め、それを一人の男が見たところから物語は始まります。
 が、ここでは物語――ストーリーではなくコマ割りの話をしたいと思います。

 モメンタムの絵が上手いと言われることはあまりないでしょう。下手なのかどうかは意見が分かれると思いますが、決して上手い絵ではありません。表紙絵ひとつ取っても、そう思います。
 モメンタムのその表紙をめくった先にある本編、ページ全体から受ける印象は独特です。それは絵だけが理由ではありません。コマ割りが非常に重要な役割を果たしています。
 モメンタムには小さいコマが多用されます。そしてその小さいコマは時に、大ゴマの一角を削り取った場所に配置され、焦点をコントロールし、大ゴマによって描かれる『モメンタム』をより印象的にしています。
 例えば、冒頭の反則ダンクシーン。
 リングに片手をかけ身体を持ちあげるぐいっという動き。最初のページからこの手法が使われています。もちろんその部分だけなく、そのページの全てのコマ、コマの中の絵、そして次のページと繋がることでより効果的になっていまして、この最初のダンクシーンは雑誌で読んだときからお気に入りです。
 また、リングにボールを叩きつけようと反り返る一瞬、高く跳ぼうと膝を曲げ僅かに前のめりになる瞬間、このような次の大きな動きを予感させる溜めを効果的に描いている箇所には、『モメンタム』という作品自身の今後を期待せずにはいられない魅力があります。
 作者、濱口裕司は新人です。
 それゆえにその表現には思考錯誤が垣間見えます。コマの枠線を太く描く、という試みをし、それが不評だったため数週で元に戻すといったこともありました。そういった不安定さの中で、きらりと光る演出が見逃せません。そしてその輝きは連載が進んでいくごとに、よりまばゆくなって来ているように思います。
 ストーリー、キャラクターの面白さといった面ももちろん魅力的です。ひと癖、ふた癖もあるキャラクター達の心打つ物語、青春バスケ漫画なのです。絵柄で敬遠されがちな本作ではそちらを褒めるのが真っ当かもしれません。しかしだからこそ今回はそれらを支える(もちろん、一方的ではなく相互作用ではありますが)コマ割りが良いと紹介することで、レビューと代えさせて頂きます。
 漫画としてちゃんと見所のある作品ですよ、と伝わったなら幸いです。
 余談ではありますが、カバー裏は前述のダンクシーンの一部が使用されており、背景が黒くなったこともあって、かっこいい仕上がりになっています。1冊の本としても見所多数ですよ!