まおゆう書籍版1巻を読んで-作品との再会について-

まおゆう魔王勇者 (1) 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

 今更、というお話なんですが、まおゆう魔王勇者の1巻を読みました。購入自体は発売当初だったのですが、ちょっとばかし積んでおりました。感想はというと非常に面白かったわけなんですが、今回は感想とかレビューとかじゃなくて、ちょっと思ったことをつらつら書こうと思います。
 今更、という言葉でこのエントリを書き始めましたが、私は自分の未熟さゆえよくこの言葉にやられてしまいます。「今更、あの人気漫画を読み始めるなんてしたくない」というような感じですね。
 もともと掲示板上に書きこまれる形で発表されたまおゆうですが、私がその存在を初めて目にしたのは、既に完結し、絶賛されている頃でした。そして読もうとしたのは「絶賛されてるから読むのを避けたい気持ちはわかるけどもそれでも読んでみればわかる」というような声まで聞こえてきた頃で(もちろん否定派も多数いましたが)はっきりとは覚えていませんが2010年5月ごろだったと思います。
 2009年秋に発表されていて、既に巷で話題と言われるくらいになっていたのを見てということで、、十分に今更だったわけです。(まおゆうみたいな作品に興味を持ちそうな人にあらかた伝わった頃と言えると思います)そういう時は妙な心理が働いてスルーすることも多い私ですが、まあ見といてやるかなどと偉そうな態度でまとめサイトを見ることにしました。
 そして1スレ分を読み終わり、私はブラウザのタブを閉じました。

 読み物として面白いとは思わなかったけど、興味深くはあって、これを面白いというのは理解できるし、今後より面白くなるだろうことは絶賛してる人の存在からもうかがえるし、それだけのパワーはあるだろうと思う。しかしもう読まなくてもいいか。概ねこのような感想を私は持ちました。
 つまるところ、傑作だけど自分には向いていない作品だろうと結論付けたのです。


Togetter - 「「まおゆう」って何が面白いの?」


 ここでも語られているように、十分に楽しめるにはある種の素養が必要のようです。(もっともどんなものに多かれ少なかれ、最大限に楽しむために受け取り手に必要な要素というものはあります。それはあることを知っていることだったり、逆に未体験であることだったりするかもしれません

 そして私には、まおゆうを楽しむ条件が揃っていなかったのです。どのような条件があれば楽しめるのか、全てを挙げることは不可能だと思うので、ここでは私が、自分に足りないと感じた条件を挙げます。

 まず、2ch、特にVIP文化に触れていないこと。ネット歴はそれなりにありますし、無論オタクですので、書かれている表現がわからないとかノリが理解出来ないということは無いんですが、VIP内での「新ジャンル」や「二次創作SS」や「AAを交えたストーリー」などはまとめブログで存在を知ってはいてもまともに読んだことはありませんでした。それゆえに、内容以前の問題で、拙く見えたのです。

 次に、大学で経済をかじったこと。修めたとは口が裂けても言えませんが、とりあえず経済学部に席をおき、経済史、経済学史などにも少しばかり触れました。ですので、特に真新しいことが語られているようには思わず、近代化への道を既に知っている魔王をただずるいなと思っていました。

 最後に、魔王に萌えなかったこと。一番大事なところでもあるわけですが(笑)ひとつめの文化の話とも繋がります。魔王の可愛さは記号なのです。可愛いことを描写しているから可愛いとされるのであって、可愛さが描写されているから可愛いのではないと思っております。これは文化を知らないから拙く見える部分であり、また事実として拙い部分でもあって、それを受容する余裕が私にはありませんでした。キャラそのものよりも描き方の問題ですので他キャラについても同様でした。

 これらの理由に、既に絶賛されているものを今更読んだというマイナスのバイアスをかけて、私は物語を最後まで読まずに離れることを良しとしました。


 それが書籍化され、発売されたものを購入し、このたび読み終えて今に至るわけです。振り返ってみるに、どうして1巻を購入するに至ったのかが不思議なのですが、そこはなんとなくの縁がでした。アマゾンのカートにぽいぽい放りこんでる最中に紛れこんだとしか言えません。しかしこの縁というものはなかなか侮れないのです。世には無数の物語があり、多数の名作があるわけです。その中でどれを手に取るのか、というのは結構切実な問題だったりします。

 私は作品と出会う窓口が狭く「原作を知らないアニメは見ない」「既に人気のあるものは避ける」「人から薦められたものを流す」というスタンスが基本でして、3つ目は我ながら酷いなーと思うのですが、前ふたつも無駄な決まりでして、性格は悪いし損もしていると常々思っています。(それでも読み切れないほどの作品が世の中にあって嬉しい悲鳴を上げるのですが)
 そんな私が、まおゆうを最後まで読めそうなのは、ひとえに書籍化されたおかげです。ありがたやありがたや、ということが言いたかったのですが、そのために長々と書いてしまいました。
 ちなみに書籍化されてどう変わったのかというと、文章自体にわずかな加筆修正と、縦書き2段組みという形式になったこと、注釈が付け加えられたことなどがありますが、私にプラスに働いたのは縦書きだけでした。なので、今面白いと思ってるのは、もともとまおゆうが持っていた魅力をようやく私が受け入れられるようになったというわけです。

 まおゆうに関しては一度中身に触れて離れましたが、そうではなく話題作だからなどという理由で敬遠してる作品なども、一度離れてしまうと再びめぐり合う機会というのはそう多くなく、新装版や文庫など形を変えてでも縁が生まれたはというのは幸せであると思います。
 最初の出会いから仲良く出来たらもちろんそれがいいのだと思います。でも、一度仲違いをしたり、疎遠になっても、また仲良く出来るチャンスが与えられたとしたら、今更などと言わずに、また作品に触れてみるのも良いものであると思います。

 まおゆうとの二度目の出会いに成功したので、今後は失敗を恐れずにいろいろな作品に触れていきたいと思います。そういう自分に向けての決意表明でした。